美瑛町立病院(北海道)研修レポート

臨床研修医 高橋 宏瑞医師としての生き方の一つを垣間見ることができた

アンパンマンのような存在として

研修の具体的な内容を簡単に話すと、まず勤務時間は基本的に9時~18時。当直は月2回で土曜の午後と日曜日はお休み。仕事内容は外来がメインで、整形外科の『熱血髭先生』と一般外科の『笑顔の先生』のもと行う。高齢社会であるためか症例は整形外科の患者が多い。外来では外傷患者のキズの洗浄から縫合、検査、抗生剤のチョイス、治癒するまでの創の管理といった最初から最後までを見ることができ、他にも関節内水腫の穿刺、粉溜の切除などありとあらゆる事をやらせてもらえた。手術も週に2~3回行っており、執刀医を任されることもあった。外来でのフォローアップも自分で行い、先生たちは困ったときに身を呈して助けてくれる、まさにアンパンマンのような存在であった。

大事なのは人と人とのつながり

自分の中で印象に残る患者は何人も居たが、やはり自分が執刀した患者に関しては特に印象が残るようで、大腿骨頚部骨折の執刀をした人と、アキレス腱断裂の執刀をした人に関しては今でも鮮明に思い出される。術後はやりきったという達成感と、これでホントに大丈夫だろうかっていう不安感が入り混じっていたのを覚えている。最終的なジャッジが出たときの執刀医としての喜びと、患者の満面の笑みは何物にも代えがたいものがあった。

地域医療はもちろん大学病院とは違う。地域医療においてもっとも大事なことは人と人とのつながり。大学病院では疾患に対し全力の治療が行われるし、それを求める方が集まる場所である。しかし、美瑛では患者のニーズにあった治療を最良としていた。農家が多い美瑛では、収穫=生活となってくる。収穫はいわば1年を生きていくうえで必要不可欠なものなのだ。たとえ持病のヘルニアが悪化しても、機械で指を怪我しても休むことはできない。美瑛町立病院の先生方はそういったことを十分理解した上で最善の治療を行っていた。患者の背景を理解して行われる医療にとても温かいものを感じた。

大勢の中の一人ではなく

また、周辺に高齢者のための施設がいくつかあり、時間が空いたときはそこへ往診にもいった。…といっても、やることといえばたいてい雑談である。しかしこの雑談が嬉しいのだ。先生と私が行くだけで満面の笑みを見せてくれて、とても喜んでくれる。部屋に酒を隠し持っているおばあちゃんなんか『一緒に飲もう!』と誘ってくれたりもする。

ある日、頑固で有名なおばあちゃんが膝に水がたまってしまったとの事で来院した。以前に何度も顔をあわせたことのあるおばあちゃんだったが、なかなか私に気をゆるしてくれなかった。しかしその日は違い、『若い先生、私の膝の水抜いて』と言った。本当は痛い手技なのにおばあちゃんは『全然痛くない。あんたうまいねぇ』と一言。そして笑顔。大きなやさしさを感じた。
大学病院ではその他大勢の一人であったが、ここでは一個人として多くの人のために存在できている。多くの人に必要とされる生活も悪くない。

無知であることの罪

トライアスロンに医療斑として参加したときの事は忘れられない。ある休日に熱血髭先生と共に医療班としてトライアスロンへ行くことになった。当日はまさに快晴で、とても景色の良い場所であったため、『最高の休日だ』とか勝手に思いながら1日は始まった。前情報によると、重傷者が運ばれることはほとんどなく、あっても軽い擦り傷や熱中症くらいだろうという事だった。情報どおりに大した問題はなく競技は進められていった。しかし、競技も中盤に差し掛かったころ、医療スタッフがざわめき始めた。
『おぼれた人がいる!!』
私はすぐに近くのスタッフと共に現場に向かい、岸にて湖からの救急隊の搬送を待った。状態は非常に悪く、すでに心肺停止状態。心臓マッサージと人工呼吸を行いつつ、医師の診察の元、救急車によって直ちに救急病院へ運ばれることになった。

…あまりに突然の出来事に呆気にとられ、私はあまりに無力であった。病院ではない現場の救急医療を肌で感じた瞬間だった。1分1秒を急くなか、少ない情報で原因を推測し、適切な処置と適切な判断をしなくてはならない。医者の責任の重さを知り、無知であることの罪の重さを知った。後日、救急隊の方々へ何か講義するチャンスをもらった。迷いなくこの体験と問題点、改善点を先生方と話し合い、まとめ、発表した。私にとってとても貴重で、忘れられない出来事となった。

研修を終えて

美瑛町立病院での2カ月間は私にとって、とても貴重な時間だった。今まで経験したことのない事を大いに経験した。医学的な知識はもちろん、医師としての生き方の一つを垣間見ることができたのは大きい。受け止め方は人それぞれであろうが、少なくともそれを経験できたことにより、私の考えの幅は広がった。医療とはただ身体的、器質的疾患を取り除くだけのものではなく、それぞれの患者にあった治療が存在し、精神的な安心感、満足感を与えることこそ本質と考えるようになった。

現在、私は東海大学に2年目の研修を迎えようとしている。今私に必要なものは知識と経験。これから努力をし、それらを段々と身に付けていったとして、その生かし方は努力で得られるものではない。今回経験し、学んだ事柄は間違いなく将来につながるものであった。

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